沿革・概要

 環境医学研究所の前身は、旧名古屋帝国大学の航空医学研究所で、昭和18年に設立された。終戦に伴い同研究所が廃止されると、その建物と施設を利用し、環境医学研究所が昭和21年(1946年)3月に名古屋帝国大学の附置研究所として発足した。当時の研究所は、「環境医学に関する学理及びその応用の研究」を行うことを目的としており、地理疾病学、食養学、気象医学、職業性疾患学の 4部門構成であった。昭和24年5月には新制名古屋大学の発足に伴って、同大学の附置研究所となり、昭和35年4月に航空医学部門が増設された。その後各部門の名称が研究内容に即して改められ、第1部門:神経・感覚、第2部門:代謝・内分泌、第3部門:呼吸・循環、 第4部門:病理・胎生、第5部門:航空医学となった。 昭和42年6月には第6部門:航空心理が増設され、以後6部門体制の時代がしばらく続いた。

 その後、研究所の見直しがなされ、平成3年4月には大部門制へ改組されるとともに附属施設としての「宇宙医学実験センター」が新設された。大部門は、生体の適応機構を分子細胞レベルで研究する分子・細胞適応研究部門、器官レベルで研究する器官系機能調節研究部門、 および、個体全体で研究する高次神経統御研究部門で構成された。分子・細胞適応研究部門は内分泌・代謝と発生・遺伝の2分野、器官系機能調節研究部門は神経性調節、循環器、液性調節の3分野より構成された。そして、高次神経統御研究部門は、当初平衡適応調節と自律神経・行動科学の2分野で構成されていたが、その後、それぞれ視覚神経科学と神経免疫の2分野に代わった。

 平成16年には、全ての国立大学が法人化され、名古屋大学も「国立大学法人名古屋大学」として新たな第一歩を踏み出すこととなった。これを契機に、所内で研究所の将来構想について多くの議論が交わされ、研究所の主要なミッションを「宇宙医学に代表される特殊な物理環境下の健康科学」から「近未来がもたらす健康障害のメカニズム解明と予防法開発」へと移行させる方針が建てられた。そして、この方針のもとに平成16年10月から平成21年3月まで、「生体情報計測・解析(スズケン)寄附研究部門」が設置され、平成17年1月には、高次神経統御部門の一分野として「脳生命科学分野」が増設された。

 平成18年4月には、新しいミッションを実現するため、さらに本格的な組織再編が行なわれた。その骨子は、従来の3研究部門から2つの研究部門(Ⅰ。ストレス受容・応答、Ⅱ。生体適応・防御)への再編と、「宇宙医学実験センター」に代わる新しい附属施設「近未来環境シミュレーションセンター」の立ち上げである。当初、「ストレス受容・応答研究部門」は、「神経系」、「内分泌系」、「免疫系」の3分野で構成され、「生体適応・防御研究部門」は、「脳機能」、「発生・遺伝」、「心・血管」の3分野で構成されていたが、現在は、「ストレス受容・応答研究部門」が「神経系」「分子シグナル制御」「免疫系」の3分野で、「生体適応・防御研究部門」は「脳機能」「心・血管」「発生・遺伝」「ゲノム動態制御」の4分野で構成されている。これに、2つのセクション(模擬環境セクション、環境ストレスモデル動物開発セクション)で構成される「近未来環境シミュレーションセンター」が附置されている。

2. 建物,施設

 環境医学研究所の建物は、昭和41年12月に旧航空医学研究所の庁舎から、今の庁舎に移転し、その後昭和54年5月に南館が、平成6年3月には3階建ての新実験棟(北館)が増築され、現在に至っている。平成21年度には本館の耐震改修工事行われた。本研究所の大型実験装置としては、昭和54年度に「低圧・低温環境シミュレータ」が設置された後、「超音波ドプラー循環動態観察システム」(昭和62年度設置)、「直線加速度負荷装置」、「超微細構造観察装置」、「分子応答研究システム」(いずれも平成5年度設置)、「下半身陰圧・陽圧負荷システム」(平成7年度設置)、「細胞形態機能高次解析システム」(平成10年度設置)などが挙げられる。このうち「直線加速度負荷装置」は、研究所ミッションの見直しにより平成16年に廃棄された。そして、平成21年度新たに「環境ストレスシミュレーション装置および解析システム」が導入された。このシステムには小動物用環境ストレスシミュレーション装置の他、小動物用コンパクト MRI 装置やマウスの詳細な代謝変化をモニターできる「CLAMS 代謝量測定装置」などが含まれる。さらに、平成23年度に「スペクトル検出型共焦点レーザー顕微鏡」「高性能セルソータFACS AreaIII」も設置された。

3. 理念

 人類が生活する環境は20世紀の後半から加速度的に変貌しており、健康への影響が一層深刻となり、複雑化してきている。私たちは、環境医学研究所の使命を「人間と環境の関わりを医学と、健康科学の面から研究することにより、人々の幸福に貢献すること」として明示し、中期目標を「我々をとりまく急激な社会環境と自然環境の変化に対する人体の適応機構と、その破綻によっておこる疾患の発症機序の解明と予防・治療法の開発」として掲げた。

 環境問題は、医学以外に工学、農学、地球科学、気象学をはじめとするさまざまな分野で研究が進められているが、その多くは環境破壊の速度を最小限度に抑えるための循環型社会を作ることに主眼が置かれている。そのような努力を世界中で展開することは極めて重要であるが、人間の活動が続く限り環境変化、環境破壊は進行してゆく。当研究所が目指すのは、30〜50年後の近未来社会を想定し、その中でヒトが安全、快適に生存し、健全な次世代を育ててゆくための医学的・生物学的条件を解明し、予防対策を工夫することである。

 近未来環境は、①有害物質の蓄積による地球環境破壊、②人口構成の変化による超高齢社会の到来、③生活圏の拡大という三つの側面から捉えることができる。具体的な健康障害としては、大気汚染、内分泌かく乱物質、酸化ストレスなどによる免疫機能低下と生殖・発達異常、さまざまな人工環境がもたらす肉体的苦痛(痛みなど)と感覚の混乱、高齢化にともなう心臓血管病による突然死、脳機能低下などが挙げられる。研究所では、これらの健康障害の発症機構を明らかにすると共に、「生命と脳機能の維持」及び「生活の質の確保」の 2面から有効な対策を研究する。